『まどか☆マギカ』における巴マミ

 『まどか☆マギカ』は良くも悪くも、世界観や脚本が完全にキャラクターをコントロールしている作品のように感じるので、キャラクターの魅力や個性といった部分をストーリーより優先する視点より、キャラクターが脚本上どのような役回りを与えられているか考えていく視点の方が、話の内容を把握しやすい気がしますね。ということで、退場してからやたらに人気が出たマミさんをみていきます。

◆頼れる先輩

 巴マミは主人公のまどか達と「同じ学校の先輩」で、「ベテランの魔法少女」です。頼れる先輩として、主人公たちに魔法少女や魔女について説明することを通して、自然な流れで視聴者に基本的な設定について説明をするという役割ですね。

正義の味方

 1話のラスト、主人公のまどかと友達のさやかが魔女の結界に迷い込んだところに颯爽登場、派手な立ち回りで魔女の使い魔を撃退して2人を助けています。2話では魔女退治を2人に見せ、自殺させられそうになった一般人を助けていますし、3話でも使い魔の退治を2人に見せています。
 3話のまどかとの会話から、孤独を埋め合わせる為に後輩の勧誘に積極的だった利己的な面も見えましたが、マミ退場後にキュウべぇが「マミは魔法少女では珍しい存在」と言っており、他の魔法少女と違って「悪い魔女を退治するのが魔法少女」という理想的な「正義の味方」であった点は間違いないようです。

◆必殺技

 作中にこれまで登場した魔法少女の中で唯一、技の名前を唱えてとどめを刺すという、いわゆる「必殺技」を使っています。マスケット銃を大量に出して使い捨てる演出はアニメ制作時のスタッフのアイデアによるらしいですが、同じ脚本からアニメ制作より早く執筆の始まったマンガ版でも同じ必殺技を使っているので、脚本段階から決まっていた設定のようですね。

◆変身シーン

 魔法少女ものではキャラクターの見せ場の1つとしてお約束になっている変身シーンですが、『まどか☆マギカ』では明らかに重視されていません。杏子が6話で比較的まともな変身シーンを披露しているものの、さやかはかなり簡略化された変身シーンのみ、ほむらもまともな変身シーンの描写はありません。そんな中、マミには丁寧な変身シーンが作られています。

理想の魔法少女像

 こうしてマミをみてみると、人を助けて悪い魔女と戦う「正義の味方」的なスタンス、必殺技、変身シーンと、戦う魔法少女もののスタンダードなイメージに比較的沿った形で作られ、演出されたキャラクターであることがわかります。つまり『まどか☆マギカ』の中では、他作品で一般的な魔法少女像、理想的な魔法少女像を象徴する存在ということですね。

 ストーリー序盤にまず、マミを通して視聴者のイメージする一般的な「戦う魔法少女像」を見せ、そのマミが殺されてしまうことでイメージをひっくり返してみせた、そうした「魔法少女像」とは違うものを見せるよ、ということをわかりやすく提示したところから話が本格的に始まっているわけです。
 確かに話題性やインパクトを狙った展開、という面はあるでしょうが、スタンダードな魔法少女に対するアンチテーゼ的な作風から考えれば必然的な展開とも言えますね。


 主人公のまどかはマミが死んだために葛藤し、魔法少女になることをひとまず断念します。ここから「魔法少女とは何か」「魔法少女になるとはどういうことか」という、他の魔法少女もの作品では当たり前の前提としてスルーされている問題が浮上してきます。また、さやかにとっても憧れの魔法少女像としてマミの影響が尾を引いています。

 逆に視聴者に人気が出たのは、単純に「かわいそう」と感情移入した面もあるでしょうが、魔法少女に否定的な世界観の中で唯一、正当派の魔法少女を象徴するような存在だったことから、理想の魔法少女像を壊されたくないという視聴者が食いついた、という要素もあるのではないかと思います。