地獄の警備員

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地獄の警備員 ― goo 映画

地獄の警備員 ― allcinema

主観的評価 ★★☆☆☆
客観的オススメ度 ★★☆☆☆


 黒沢清監督の初期作品で、わかりやすくB級ホラーといった雰囲気。映像がビデオ作品レベルの画質なのでVシネか何かだったんでしょうか。小道具がテレックスだったり、衣装やメイクだったり、主人公が配属されたのが商社の中の絵画取引部門だったりするあたりに時代を感じます。

◆低予算ホラー

 大企業の割にひと気が無くガランとした社内や癖のある同僚など、社内を非日常的に描写しているのは低予算が主な理由だろうけれど、主人公が入社した時点で既に異様な世界に迷い込んでいたという演出、新しい環境に対する違和感の演出とも取れますね。B級臭さを感じる部分ですが、低予算を逆手に取った演出としては有りだと思います。
 あとは、殺人鬼役の松重豊の存在感の強さが、チープな特殊メイクやこけおどし等に頼らずに映画を支えていて良かったですね。

◆理解できないモノに対する恐怖

 個人的に気になった問題は殺人鬼の扱い方でしょうか。この作品では殺人鬼の警備員を、精神に異常をきたした者、普通の人間と何か違った論理で行動する者として描いています。つまり「得体のしれないモノ、理解の範疇を超えたモノの恐怖」を描いているわけです。黒沢清は後の『CURE』でも人間の内面の不可解さを描いていますし、この作品でも重要なポイントのように描かれています。

◆物理的な暴力

 一方で、その行動内容、殺人についてはスプラッター映画のような直接的な暴力を丁寧に描いています。詳しくないので解りませんでしたが、過去のホラーやスプラッター映画へのオマージュも多々あるようです。こうした描写はどうしても「物理的な暴力に対する恐怖」を強調してしまいますね。「物理的な暴力」は、動機が不明でも「訳の分かる恐怖」です。そのため、暴力描写にしつこくこだわる程、「得体のしれない謎の殺人鬼」がただの通り魔とあまり変わらない存在になってしまい、「訳が分からないモノに対する恐怖」感は薄れてしまいます。

◆恐怖の違い

 「理解不能なものへの恐怖」と「物理的な暴力への恐怖」を両立させるには、『13日の金曜日』のジェイソンや『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスのように異様な外見であったり、『エイリアン』のような人間ではないモノにしたり、『激突!』のように姿を見せないなど、異質さを強調する必要があるように思います。逆に『ターミネーター』のようにストレートに物理的な暴力で押し切る場合は、追跡のスリルや火器を使ったアクションなどに比重が置かれるのではないかと。
 そういう点で、『地獄の警備員』については描きたいこと(得体のしれないモノに対する恐怖感)と、描き方(物理的な暴力の追求)にどこかズレがあって煮え切らない印象を受けました。結果的に怖く感じないし、殺人鬼がターミネーターのパロディか何かのようでやや滑稽に見えてしまいました。

◆内面と外面

 他に目についた点は、ホラー映画にありがちな襲う側や被害者側の主観視点で恐怖感を煽るカメラワークがあまり無かったこと。むしろ少し離れた視点から冷静に眺めるようなカメラワークが多かったように思います。このあたりが登場人物の心理描写の少なさや、いたぶるように殺す残酷さなど外面的描写に対する興味の強さ、という印象につながっていると思います。黒沢監督は人間の内面はよくわからない、あまり積極的に描かないという考え方なんでしょうか。

◆まとめ

 ロッカーに繰り返しタックルして中の人間ごと潰してしまうといった面白いアイデアもありましたが、総合的にはやや物足りない作品でした。黒沢清という監督に興味があるので、とりあえず見ておいて損は無かったかなという程度です。
 あえて今この作品を見るとすれば、B級ホラーの好きな人や黒沢清に興味のある人向けでしょうか。