『魔法少女まどか☆マギカ』は魔法少女のアンチテーゼか?

 久々に毎週続きを楽しみにしている『魔法少女まどか☆マギカ』なんですが、ネットで感想や考察を見かける機会も多いですね。自分でも感想を書いておきたくなったので、こちらにまとめてみました。
 当初の予想通り、『まどか☆マギカ』は「魔法少女もの」というジャンルのアンチテーゼを志向した作品のように思います。単純に「お約束」のフォーマットを逸脱するのではなく、より意識的に設定や脚本が魔法少女を否定するような構造になっていますね。
 魔法や奇跡、敵との戦い、変身アイテム、マスコットキャラクターといったように、使われているモティーフ自体はよくある「戦う魔法少女もの」の「お約束」と同じですが、それらを独自解釈することでネガティヴな方向に意味付けしています。

◆魔法の扱い

 この作品では、魔法少女が魔法を使うとその魂であるソウルジェムが濁りますが、負のエネルギーを吸収する魔女の卵、グリーフシードがこの濁りを吸いとることから、「魔法を使うと魂が穢れる」ことが分かります。戦いの中で負の感情を抱くから濁る、という可能性もありますが、戦闘以外の場面で使われている治癒魔法や拘束魔法が無制限に使える、というのは考えにくいので、やはり魔法を使うだけで魂が穢れている可能性が高いでしょう。
 また、魔法少女の魔力の源であるソウルジェムは普段は指輪の形になっていますが、これに刻まれている少女の名前は、敵である魔女に使われているものと同じルーン文字が使われています。つまり魔法少女の魔法と魔女の力は同じものではないか、ということですね。「悪」とされている魔女と同じ力を魔法少女が使っているとすれば魂が穢れることも納得できます。
 実際8話で、予想通り魔法少女が魔女になることが明かされたので、魔女と魔法少女は本質的に同じものであり、魔法少女を使って魔女退治を行うことは「毒を以て毒を制す」ようなやり方だと分かります。すると魔法少女は「正義の味方」というよりは「必要悪」とでもいうべき存在で、しかも「必要悪」がいつかは「悪」になってしまうため、このシステムの中では魔法少女は純粋な「正義の味方」にはなれないことになります。

◆奇跡の扱い

 『まどか☆マギカ』では魔法少女になる契約と引き換えに奇跡の力で願いを叶えてもらえますが、作中では結果的に不幸になるパターンばかり描写されています。「願い」というのは結局は「欲望」であること、奇跡を起こすキュウべぇがどうやら悪意のある存在であることから、「欲望の為に良くない力で現実を改変した結果、報いを受けてしまう」といった印象を受けます。加えて『ファウスト』からの引用がストーリー序盤から提示されていることからも、魔法少女の契約が、魂と引き換えに望みを叶える「悪魔の契約」になぞらえられていることは明らかなので、魔法少女はたぶらかされた犠牲者ということになってしまいます。


 こうした「魔法」や「奇跡」のネガティヴな意味付けから、超自然の力に頼ることは本来良くないことで、あくまで自分の力で現実に立ち向かうことを良しとする世界観が伺えます。当然、こうした「魔法」や「奇跡」によって成り立っている魔法少女も否定されるべきもの、となりますね。

ソウルジェム

 他の魔法少女ものでは変身アイテムは単に魔力の源で、ストーリーの最後にこれをマスコットキャラに返して普通の少女に戻ったりしますが、『まどか☆マギカ』ではこれが魔法少女の魂の結晶であり本体、となっていますね。しかも普通の人間に戻ることもできません。
 この設定が活用されたのが6話の、まどかがさやかのソウルジェムを投げ捨ててしまうくだりですね。おそらくまどかの認識では、よくある魔法少女もののようなただの変身アイテム、魔力の源と考え、これを無くせばさやかが戦いから解放されると単純に思ったのでしょう。
 変身アイテムや「魔法少女になること」について、通常の魔法少女ものと『まどか☆マギカ』における解釈の違いを、まどかを通じて意図的に強調したエピソードでした。

◆マスコットキャラ

 多くの魔法少女もの作品では主人公に魔法の力を授け、目的を与えるマスコットキャラがお約束で登場します。まどか☆マギカ』でもキュウべぇというマスコットキャラが登場して同じ役割をしていますが、通常のマスコットが積極的に主人公たちをサポートする、友人や教師のようなスタンスであるのに対して、キュウべぇは契約後の魔法少女の行動には関心が無いようですね。魔女と戦わせることが真の目的ではなかったことが8話で確定しているので、効率良く魔女と戦わせていなかったことも当然の行動だったことになります。魔法少女の味方ではなく、中立もしくは悪意のある存在ということになります。


 こうしたお約束の設定の意味をズラすことで、設定の段階から魔法少女に対して否定的な意味付けがされていることがわかりますね。